種の起源 – デジタルシネマカメラの進化

種の起源 – デジタルシネマカメラの進化

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今日我々が普通に使っているラージセンサーデジタルカメラには、興味深い進化の歴史がある。それはフィルムから進化したのではなく、ビデオから進化したのだ。

従って、ここではデジタルシネマカメラだけではなく、放送用のカメラやDSLR、ミラーレスカメラも含めて、デジタルビデオという言葉で説明する。

デジタルシネマカメラの歴史を知ると、なぜこんなにいろいろな種類のカメラがあり、なぜ似た基本構造(例えば35mmベイヤーセンサー)を持ちつつ、こんなに多くの相違点を持っているのかが分かるだろう。

一方では圧縮した映像ファイルを使い、また一方ではRAWでないとダメだという。あるカメラは内蔵NDフィルターを持ち、そうでないカメラもある。基本性能や操作性はカメラによってまちまちだ。

これらの違いは、目的のマーケットが異なるからに他ならない。カメラにはそれ特有のニーズがあり、ユーザーの要求があるのだ。それゆえ、全てを満足するカメラなど存在しない。

それでは、デジタルカメラの「進化の木」を見てみよう。

デジタルビデオのルーツ

今日のラージセンサーデジタルビデオカメラのルーツは、miniDVフォーマットを採用したソニーのPD150やキヤノンのXL1に端を発し、SDフォーマットからHDフォーマットに続く放送業務用カメラに見ることができる。

しかし、よりシネマティックな、よりフィルムライクな映像を求める声が状況を変えた。その声は決して放送業界から出たものではなく、自主制作映画から出たものだ。

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それは、重くて不格好なシネレンズアダプターから始まった。これはPLレンズを通したsuper35mmの映像を一度ガラス面上に投影し、3板式カメラのズームレンズで再びそれを撮影するというものだった。これは全て光学で処理された。

P+S TechnicのMini-35やPro-35アダプターは、このようにしてDVカメラで映画人に新しい世界を開いたのだった。

 

 

Panasonic_AGDVX100B_AG_DVX100B_3CCD_24p_Mini_DV_406855パナソニック DVX100

同じ頃、プログレッシブで24pを採用したminiDVカメラが登場した。パナソニックのDVX100だ。これは24pを最初に採用し、24pでの撮影に最もよく使われたカメラで、その手の撮影の起爆剤になった。DVX100はSD記録のみでminiDVテープに記録する方式だったが、今まで不可能だったシネマライクな映像が実現できるとあって、若いインディー系映画人から圧倒的な支持を受けたのだ。

ソニー CineAlta

デジタルシネマの波は徐々に広がっていったが、ハリウッドも例外ではなかった。1999年6月、ジョージルーカスはスターウォーズのエピソードII三部作をデジタルで撮ると発表した。ソニーとパナビジョンが共同で、初のHD24p CineAltaカメラHDW-F900を開発した。F900と、更に進化したF950(その後スターウォーズのエピソードIII:シスの復讐の収録に使用された)は、しかしまだ本質的には放送用カメラで、映画を撮るという意味では進化の途中だった。

デジタルシネマカメラの登場 - DALSA OriginからRED ONE

今日の、本来の意味のデジタルシネマカメラは、元をたどれば35mmのセルロイドフィルムを追い求めたデジタルカメラ技術の産物だ。これはデジタルビデオカメラが分岐した、重要な最初の分岐点だ。本家の方は、相変わらず放送用のHD、あるいはUHDのカメラとレンズとして進化している。

一方、35mmデジタルシネマカメラへと続く分岐した枝は、35mmフィルムカメラと一緒に使うため、それまでとは全く違うニーズに直面していた。大画面のニーズがあったのだ。それは、ワンマン撮影やテレビクルーとは異なり、従来のフィルムカメラ同等の高画質と操作性を追求するニーズだったのだ。

Dalsa_origin

あまり知られていない医療用映像機器のメーカーDalsaが2003年にOriginというカメラを発表した。これが世界初の35mm 4Kのデジタルシネマカメラだった。Originはジャジャ馬カメラだったが、デジタルシネマの創世記に制作技術を発展させた功績は大きい。デジタルシネマの将来を見据え、やがては完全なデジタルシネマの世界がやってくることを示したのである。

オーナーカメラマンの台頭

RED Digital Cinemaが、RAW記録の4K 35mmカメラを本体価格17,500ドルで発表したとき、世界はその信ぴょう性を疑った。なんとそれはシリアルナンバーを販売することで、前代未聞の予約を取ったのだ。これは、オーナーカメラマン(会社のカメラやレンタルカメラを使うのではなく、自分でカメラを所有するカメラマン)の起源と言える。

RED_One

RED Digital Cinemaは様々な約束を果たし、文字通りほぼ一夜で業界を変えてしまった。シネマトグラファーはもちろん、技師やエディター、VFXアーティスト、そしてカラリストに至るまで、遅かれ早かれその衝撃を受けたと言えよう。彼らのやり方は今まで誰もやったことのないものだったが、それは今でも続いているのだ。

映像データ

super35mmセンサーとシネマレンズマウントによって、デジタルシネマは妥協策ではなく、それ自体の目的のためのツールを得た。35mmデジタルシネマカメラは放送用ENGカメラの妥協の産物ではなくなったのだ。シネマ用プライムレンズに加え、マットボックスやフォローフォーカスユニットなどのアクセサリーもそれに適したものが開発された。また、放送用では普通に使われていた映像圧縮は、RAWという非圧縮で撮影する手法に代わっていった。

その頃、放送用カメラはテープとメモリーメディアをそのインフラに混在させて適応させる必要性に迫られていた。コーデックもそうだし、インジェストのスピードも、編集も送信も、全て適応させる必要があったのだ。一方シネマは、フィルム画質と同等以上の画質を実現するため、非圧縮の映像ファイルを扱うという必要性に迫られていた。

最初の35mmデジタルシネマカメラでは、とてつもない大きさの映像データだった。先のDalsa Originは大容量のRAID HDDを使用し、ポータブルでの使用はまず無理だった。高ビットレートのRAWファイルで記録することは、35mmデジタルシネマ撮影には適していなかったのだ。

このような背景から、今日に至るまで、ハイエンドシネマカメラは多かれ少なかれ従来のフィルムカメラに交じって使用された。そして、この混用はハリウッドで普通に使われていたのである。

VDSLR

Vincent LaForet監督の“Reverie”(米国のTVシリーズ)は我々にとって忘れられない作品だ。これは全編キヤノン5D MarkIIで撮影されたのである。これは最初の1週間で2百万回視聴されたということだ。

デジタルシネマとデジタルフォトの思いがけない出会いは、爆発以外の何物でもなかった。これがまさにVDSLRの源流だったのだ。35mmデジタルシネマにとって、革命的な事件だった。それ以降、我々は今まで考えたことも触ったことも無かったDSLRから大きな恩恵を受けているわけだ。

キヤノンは間違いなく、何か大きな、重大なことを成し遂げたのだ。キヤノンはフルHDのラージセンサー35mmカメラと交換レンズで、そしてそれらによる浅い被写界深度で、シネマビデオマーケットの真中に躍り出たのだ。キヤノンに足を向けて寝られない。しかし、この大きな功績の後、キヤノンは沈黙してしまったと感じるのは私だけではないだろう。

RED Digital Cinemaは25,000ドルを払える人にまで解放したのだが、キヤノンは万人にデジタルシネマを開放したのだ。NABやIBCはもちろん、他のメジャーな展示会で連日報道されたのは言うまでもない。

少し前は、フォローフォーカスやマットボックスが必要ならArri FF-4やMB20を買う必要があった。これらのものはレンタルするものであって、自前で持つものではなかった。しかし、今やREDとキヤノンのおかげで、高品質のものが比較的安価に買うことができる。

まさにキヤノン5D MarkIIが作りだしたマーケットと言える。以前は誰もフォト用のカメラケージや低価格のフォローフォーカス、ギアリングを使うことになるなど思いもよらなかったことなのだ。

super35mmカムコーダーの必要性

放送業界で使われるカメラにも35mmデジタルシネマ映像が浸透していったのは、もう一つの興味深い点である。このような形のカメラは、拡大するオーナーカメラマンのマーケットでも一定のニーズがあると、カメラメーカーは踏んだ。

急な動きではなかったが、キヤノン、ソニー、パナソニック、JVCなどのメーカーは(一部のカメラを除いて)、ArriやREDの、フィルムカメラの血を引く“正当な”シネマカメラに対抗しだした。具体的には、彼らが長年培ってきて良く知っているマーケットに向けて、従来の形をしたカメラに35mm CMOSセンサーを搭載したのだ。

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特にソニーは両方のスタイルに対応しようとし、いわゆるクロスオーバーのカメラを開発した。しかし、マーケットの反応は明らかだった。ハリウッドで従来のフィルムカメラと一緒に使われているArriやREDのカメラは見かけるが、ソニーやキヤノンのカメラが同じような状況で使われているのを見るのは稀だ。ソニーのF65のような“4Kの神髄”のようなカメラで、カラーフィルターを駆使しても、RGB4:4:4のワークフローをもってしても、ハリウッドが望むフィルムのような質感は出せなかったのである。ただ、これらソニーやキヤノンのカメラは、ドキュメンタリーやテレビコマーシャル、コーポレートビデオ、あるいは自主制作映画やテレビドラマといった分野では広く使われている。

ビデオ圧縮

高画質に重きを置くシネマカメラは、RAWを使い、広いバンド幅で、深い量子化でフレーム内圧縮をするが、これらのことはオーナーカメラマンには不要なものだ。映像圧縮するとファイルサイズも小さくなり、扱いやすくなるが、画質が大幅に低下するというものではないし、実際これで十分なマーケットの方がはるかに多いのだ。

小型軽量化

従来のENGカメラは、容易に肩担ぎできるように設計されていたので、歴史的にもカメラとレンズの重さは、必ずしも軽いものが望まれるということではなかった。今日ではショルダーにしてもハンディーにしても軽いカメラが望まれ、簡単なセットアップや操作の容易性が望まれている。純血のシネマカメラでもこの傾向は無視されておらず、Arriで言えば、AlexaやAmiraで反映されている。

内蔵フィルター

内蔵フィルターに対する要望は、新製品が出るたびに声高に論じられるが、多くはマットボックスやフィルターセットを日常使わないユーザー層である。フィルターを内蔵するかどうかは、目標としたマーケットによって決められる。例えばBlack Magic Designは、彼らのカメラにNDフィルターを内蔵するということはまずやらないし、圧縮に関してもCinemaDNG RAWやProResというハイエンドで重たい記録フォーマットを採用する。もちろんシネマユーザーがターゲットだからだ。カメラを買おうとするときは、自分の用途に合ったカメラを探すというのは当たり前だが、心にとどめておく必要がある。

適材適所

映画撮影現場で、大きく重いフライトケースを良く見かける。シネマライクな映像を撮影するためには、大きく、重いシネマカメラが使われる。しかし全ての撮影にシネマカメラを使う必要は無い。フィルムライクな映像が必要でない場合には、それらを使うことは適切ではない。このような場合にはsuper35mmのカムコーダーで十分間に合うだろう。

デジタルシネマの展望

今回は、デジタルシネマのビッグバンから過去10数年くらいをざっと見てみた。他の記事も合わせて読んでいただくと分かりやすいだろう。いずれにしても、このテクノロジーは、今やアマチュアからプロまで、映像に携わるあらゆる分野に浸透している。

我々は10年前に比べて、カメラやアクセサリーを、機能や価格など数ある商品の中から選ぶことができる。今なお成長を続けるデジタルシネママーケットは以前には無かったものだ。

全てを満たすカメラというものは無く、それぞれのカメラは目的に応じて形や機能が細分化されている。そして、自分に最適のカメラは必ず存在する。

(この記事は、日本語サイト発足以前の2016年2月にcinema5Dインターナショナルサイトに掲載されたものですが、興味ある読者も多いと考え翻訳しました。)

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