
ソニーセミコンダクターソリューションズは、スマートフォンカメラ設計を根本的に変える可能性を秘めた積層型CMOSイメージセンサー「LYTIA 901」を発表した。約2億有効画素と業界初のオンチップAI処理回路を組み合わせることで、単一レンズから高品質な4倍デジタルズームを実現。これにより将来のフラッグシップ端末では専用の望遠モジュールが不要になる可能性がある。
長年、スマートフォンメーカーは異なる焦点距離をカバーするため、複数のカメラを端末に積み重ねてきた。広角、超広角、望遠、ペリスコープ――カメラの突起部は増え続ける。ソニーの最新センサーはこの手法に真っ向から挑戦する。AIを用いてセンサー上で直接ズーム処理を行うことで、LYTIA 901は望遠レンズなしで高画質の画像を約束する。このセンサーは現在量産出荷中であり、数か月以内に端末に搭載される可能性がある。
デジタルズームが常に失望をもたらす理由
デジタルズームの根本的な問題は単純だ。画像をトリミングすると画素が失われ、結果を拡大すると不要効果が発生する。ソフトウェア処理で改善は可能だが、通常はアプリケーションプロセッサで行われるため、遅延が生じ、リアルタイム動画撮影での実現が制限される。従来の高画素センサーはトリミング用の画素数を増やしたが、2倍以上の拡大では画質が明らかに低下した。
ソニーの解決策はこの問題の根源に迫る。LYTIA 901はクワッド・クワッド・ベイヤーコーディング(QQBC)配列構造を採用し、16個の隣接画素(4×4グリッド配置)が同一カラーフィルターを共有する。通常撮影時はこれら16画素が1画素に統合され、卓越した集光性能を備えた1250万画素出力を実現する。ズーム作動時には、センサーが「リモザイク処理」を行い、2億画素フル配列から個々の画素データを解放する。
AI処理の優位性
LYTIA 901の真価はここにある。QQBCデータを標準ベイヤーパターンへ再モザイクするには膨大な計算が必要で、単純なアルゴリズムでは失われる高周波ディテールを正確に復元しなければならない。ソニーはこの課題に特化したAI学習型リモザイシングシステムを開発し、さらに画期的な手法を採用した。その処理回路をセンサー本体に直接組み込んだのだ。

その結果、真のリアルタイム性能が実現した。LYTIA 901は最大4倍デジタルズーム使用時でも30fpsの4K動画撮影が可能で、AIがリアルタイムで再モザイク処理を実行する。外部プロセッサのボトルネックも、フレームレートの妥協もない。ソニーは、従来のアルゴリズムではぼやけてしまう微細なパターンや文字の再現において、このAIアプローチが優れていると述べている。
専用カメラに匹敵するダイナミックレンジ
過酷な光環境で画像が崩れるなら解像度は無意味だ。ソニーはLYTIA 901に、極端なコントラスト環境でも細部を保持するHDR技術を複数搭載した。デュアル変換ゲインHDR(DCG-HDR)は1フレーム内で異なるゲイン設定でデータを読み取り、Fine12bit ADC技術は量子化深度を10ビットから12ビットに高め階調表現を向上させる。
目玉となる数値はハイブリッドフレームHDR(HF-HDR)によるものだ。これは短時間露光フレームとDCGデータを後処理で合成する技術。ソニーによれば、16ピクセル加算モードでは100dBを超えるダイナミックレンジを実現する。参考までに、これは一部のシネマカメラに迫る性能であり、現在のスマートフォンセンサーの大半を圧倒的に凌駕する。

本格的な動画撮影向けフレームレート
モバイルでの動画撮影において、このセンサーの出力柔軟性は重要だ。フル2億画素解像度(4:3アスペクト比)では、フルRAW出力で10fpsの撮影が可能だ。動画撮影では実用的な50MP出力(2×2ビニング)で30fps、12.5MP(4×4ビニング)では60fpsを達成する。
16:9アスペクト比の動画専用モードでは、2×2ビニングによる8K/30fps、4×4ビニングによる4K/最大120fpsに対応する。全読み出しモードで全画素オートフォーカス機能を維持する。これらの仕様により、LYTIA 901は従来専用動画センサーの領域に踏み込んだ。

スマートフォン設計への影響
影響は画質だけにとどまらない。単一センサーが現行マルチカメラシステムと同等以上の性能を実現できれば、メーカーは大きな利点を得る。カメラバンプの薄型化が可能になる。内部スペースが確保され、大容量バッテリーや他の部品を搭載できる。部品コストが削減される。設計チームの自由度が高まる。
もちろん、超広角撮影には依然として別個の光学系が必要であり、真の光学ズームが提供する利点は計算処理では完全には再現できない。しかし、1倍から4倍のズーム範囲を利用する大多数のユーザーにとって、LYTIA 901のアプローチは十分以上に有効である可能性が高い。2019年以降、フラッグシップスマートフォンを席巻してきたトリプルカメラ方式は、初めての本格的な挑戦に直面しているかもしれない。

技術仕様
LYTIA 901は1/1.12型フォーマット(対角14.287mm)で0.7μmの画素ピッチを採用している。接続規格は、MIPI C-PHY(2~3トリオ、各トリオ最大6.0Gsps)とMIPI D-PHY(2~4レーン、各レーン最大2.5Gbps)を備える。電源要件はアナログ回路用に2.8Vと1.8V、デジタル処理用に0.82V、インターフェース用に1.8Vまたは1.2Vである。
ソニーLYTIA 901は現在量産出荷中で、今後数ヶ月以内にフラッグシップスマートフォンへの搭載が見込まれる。デバイスメーカー向け部品販売なので、価格は非公開だ。この技術が実機テストで実証されれば、かさばるマルチカメラ搭載の終焉が始まるかもしれない。

































